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広島地方裁判所 平成5年(ワ)483号の3 判決

広島県〈以下省略〉

原告

右訴訟代理人弁護士

足立修一

飯岡久美

板根富規

今井光

池上忍

坂本宏一

津村健太郎

山口格之

大澤久志

小田清和

武井康年

小野裕伸

久笠信雄

坂本彰男

田中千秋

中田憲悟

二國則昭

松永克彦

三浦和一

山田延廣

山本一志

我妻正規

笹木和義

東京都千代田区〈以下省略〉

被告

新日本証券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

坂田博英

森川和彦

大松洋二

主文

一  被告は、原告に対し、一三〇万円及びこれに対する平成五年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項について、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、二五九万九五五〇円及びうち一七八万二八〇〇円に対する平成二年九月二五日から、うち三五万三八〇〇円に対する平成二年九月二六日から、うち四六万二九五〇円に対する平成二年一〇月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(なお、予備的請求の遅延損害金の起算日は訴状送達の翌日からとする)。

第二事案の概要

本件は、(一)原告は、被告会社の営業担当者が原告の解約及び解約代金返還の指示に違反して株の無断委託売買や外貨建てワラントの無断売買を行ったことにより、解約代金相当額の損害を被った、(二)仮に、原告が外貨建てワラントの売買を事後承諾したとしても、原告は、被告会社の営業担当者から、外貨建てワラントについて、「ワラントは転換社債や株のように値動きのあるものです」と言われたのみで、そのリスクについて何も説明を受けず、事後承諾させられたものであって、外貨建てワラント売買代金相当額の損害を受けたとして不法行為(民法七〇九条、七一五条)による損害賠償を求める事案である。

一  争いのない事実等

1  被告は、有価証券の委託売買・自己売買、株式や社公債の引受け・募集・売出し等の業務を行っている株式会社である。

2  原告は、昭和五〇年ころ、ウツミ屋証券株式会社との間で、株取引を始めた。

3  原告は、昭和五四年一月から、被告との間で、株取引を始めた。

4  被告会社の従業員B(以下「B」という)は、原告の証券取引の担当者であった。

5  原告と被告会社とは、平成二年九月一九日ころから平成二年一一月五日までの間に、別紙(本件取引一覧表)記載のとおり、株の売買委託及び外貨建てワラントの売買をした(以下、右期間の取引を「本件取引」という。外貨建てワラントの取引を「本件ワラント取引」という)。

ユニチカワラントの権利行使期間は、平成五年七月二〇日であり、トーメンワラントの権利行使期間は、平成五年一一月二四日であった。

二  争点

1  本件取引の経緯(本件取引における原告の事前・事後の承諾の有無、本件ワラント取引におけるBの原告に対するワラントの説明態様)

2  本件取引の違法性(解約・精算指示義務違反、無断売買)

3  本件ワラント取引の違法性(適合性の原則違反、断定的判断の提供、説明義務違反)

4  原告の損害額(過失相殺を含む)

三  原告の主張

(本件取引の経緯について)

1 原告は、平成二年夏ころ、投資信託が値下がりし、元本割れしてきている、と聞き、Bに対し、所有していた投資信託全部(ダイナミックステージ八八―二ストック二四〇口、及びエース八八―一〇株式ファミリー五〇万口)を一括解約し、解約代金を原告に渡すよう指示した。

Bは、「もうちょっと、もうちょっと」と言って、解約に応じなかった。その際、Bは、原告に対し、投資信託は発行後二年間のクローズド期間があり、その間は解約できない旨の説明はしていない。

2 Bは、平成二年九月一九日、原告に事前に知らせずに、ダイナミックステージ八八―二ストック二四〇口のうち、二〇〇口のみを解約(解約代金七八万二八〇〇円)した。Bは、解約代金を原告に払い戻さず、同日、原告に無断で、右解約代金をもって岩谷産業の株式一〇〇〇株を買い付けた。

Bは、事後、原告の勤務先に電話し、右買付けを報告した。原告は、Bに対し、「無断でそういうことを売買をしてもらっては困る」と抗議した。Bは、「損を取り戻すためです」「まあこれは有望なんだから買っときなさい。買ったんだし」と言うのみであった。原告は、買われてしまった以上、取り消すことはできない、と思い、それ以上の抗議をしなかった。

3 Bは、平成二年九月二〇日、ダイナミックステージ八八―二ストックの残り四〇口を解約(解約代金三五万三八〇〇円)した。Bは、同日、解約代金を原告に払い戻さず、原告に無断で、右解約代金をもって福山通運の株式一〇〇〇株を買い付けた。

Bは、事後、原告の勤務先に電話し、右買付けを報告した。原告は、Bに対し、「勝手なことをしてくれるな」「度々このようなことをしてもらっちゃ困る」と強く抗議した。Bは、「これは前に一辺買ったことがあるから、馴染みがあるから、買ったんだ」「今までの損を取り戻すためです」と言うのみであった。

Bは原告に対し、福山通運株の購入代金の不足分三六万一五〇〇円の支出を求めた。原告は、これを拒否したが、Bから、「一〇万円は自分が負担するから、残りの二六万一五〇〇円をとりあえず立て替えてほしい」と懇願され、二六万一五〇〇円の立て替えに応じた。

4 Bは、平成二年一〇月八日、原告に無断で、前記2の岩谷産業の株式一〇〇〇株を売却し、同月一一日、原告に無断で、右売却代金をもって福山通運の株式一〇〇〇株を買い付けた。

Bは、事後、原告に対し、右買付けを電話で報告した。原告は、Bに対し、株取引はそんなに頻繁に行うものではない、と強く抗議した。

Bは、原告に対し、福山通運株の購入代金の不足分二万二七五八円の立て替えを求めた。原告は、「度々こういうことをされたんじゃ困るから、金は出さない」と断った。しかし、Bが、「自分が責任をもちます、私を助けると思って何とかお願いします」と懇願するので、仕方なく、二万二七五八円を渡した。

5 Bは、平成二年一〇月一七日、原告に無断で、右福山通運の株式一〇〇〇株を売却した。そして、原告に対し、ワラントについて何の説明もすることなく、無断で、右売却代金をもって〇三三井物産ワラント九三を買った。

Bは、事後、原告の勤務先に電話し、右売買を報告した。原告は、「なんてことしてくれたんだ」と抗議した。Bは、「損を取り戻すためです」の一点張りであった。原告は、ワラントを知らなかったため、Bに説明を求めた。Bは、「転換社債と株式と同じように値動きのあるものです」と言うのみで、それ以上の説明をしなかった。

Bは、その後、原告の勤務先を訪問し、「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」(乙四、以下「確認書」という)を示して、原告の署名を求めた。原告は、仕事中であり、忙しかったため、Bの言うままに署名した。その際、Bは、原告に対し、ワラントについて何も説明せず、「国内新株引受権証券(国内ワラント)取引説明書・外国新株引受権証券(外貨建てワラント)取引説明書」(乙五、以下「説明書」という)の交付もしなかった(現在まで、被告会社から原告に対する説明書の交付はない)。

6 Bは、平成二年一〇月二四日、原告に無断で、三井物産ワラントを売却し、その売却代金をもって〇三トーメンワラント九三〇二を買った。

Bは、事後、原告の勤務先に電話し、右売買を報告した。原告は、「もう、こんなわからんものを買ってくれちゃ困る。そういうことをしちゃ困る。どういうものか説明に来てくれ」と言った。

Bは、原告の勤務先を訪問し、「株が上がれば、ワラントも上がる。株が下がれば、ワラントも下がる」という説明をしたのみで、ワラントの値動きの幅は株に比べて大きいとか、ワラントには行使期間があるとか、行使期間がくれば価値がゼロになるとかいう説明はしなかった。

7 原告は、Bが原告に無断で次々に取引を行うので、これ以上無断売買をされないように、手堅い商品であるNTT株を購入しよう、と考えた。Bに指示して、福山通運株一〇〇〇株を売却し、代わりにNTT株を購入した。

8 Bは、更に、平成二年一〇月二六日、原告に無断で、エース八八―一〇株式ファミリー五〇万口を解約(解約代金四六万二九五〇円)した。そして、解約代金を原告に払い戻さず、同日、原告に無断で、右解約代金をもって〇一ユニチカワラント九三を買った。

Bは、事後、原告の勤務先に電話し、右売買を報告した。原告は、「また、やってくれたか」と強く抗議したが、Bは「損を取り戻すためです」と言うのみであった。

9 原告は、このままではNTT株も無断売買されてしまう、と思い、同株が値下がりし始めたこともあって、平成二年一一月五日、Bに指示し、NTT株を売却した。

ところが、Bは、同日、原告に無断で、右売却代金をもって厚木ナイロンの株式一〇〇〇株を買い付けた。

Bは、事後、原告に電話し、右売買を報告した。原告が抗議すると、「これは増資が付くから買いました」と説明した。

Bは、原告に対し、厚木ナイロン株の購入代金の不足分の追加支出を求めた。原告は、これを断ったが、Bから、「課長と一緒に(原告の所に)行くことになっているから、あなたの手からもらわないといけない。一時立て替えてくれませんか。これが課長に知れると自分の身が危険ですからお願いします」と懇願され、Bが会社を首になったら立替金の返還も受けられない、と思い、しぶしぶ立替えを承諾した。原告は、Bらが原告の勤務先を訪問した際、再び支払いを拒否したものの、Bの懇願に負けて、結局立替金を支払った。

(本件取引の違法性)

1 原告は、平成二年夏ころ、自己所有の投資信託全部(ダイナミックステージ八八―二ストック二四〇口、エース八八―一〇株式ファミリー五〇万口)の一括解約及び解約代金の返還を指示した。ところが、Bは、原告の解約指示に直ちに従わなかった。投資信託の解約実行後も、原告に対し、解約代金を返還せず、原告に無断で、本件取引を行った。

2 Bは、本件取引後、いずれの場合も原告に電話で取引の報告をしているが、原告は、直ちに異義を述べて、抗議している。原告が売買代金の不足分を支出したのは、Bが「立替えてほしい」と言った言葉を信じたためである。原告が月次報告書に確認の署名をして被告に返送したのは、すでに成立した取引は後から取り消すことができない、と誤解し、「損を取り戻すためです」と言うBを信じ、事後処理を取り繕うことに協力したにすぎない。これらの原告の言動をもって、無断売買の追認と認めることはできない。

3 Bは、原告の投資信託の解約・精算指示に応じる義務があったにもかかわらず、右義務に違反し、直ちに解約することなく、解約した代金も原告に返還せず、これを流用して原告に無断で本件取引をし、原告に解約代金相当額の損害を与えたから、Bの使用者である被告は、Bの不法行為について、使用者責任を負う。

(本件ワラント取引の違法性)

1 ワラント取引の危険性

ワラント取引には、次のような危険性がある。

(一) ハイリスク・ハイリターン(価格変動の大きさ)

ワラントの価格は、株価に連動して決まるが、株価の変動率の何倍もの変動を生じる(ギヤリング効果)から、ワラントは、ハイリターンであると同時にハイリスクをともなう商品である。

(二) 権利行使期間の存在

ワラントには、権利行使期間が予め定められている。株価がワラントの権利行使価格を上回らず(この場合には、ワラントを行使するメリットがない)、権利行使期間を経過した場合には、ワラントを行使して新株を購入する機会がないまま、権利が失効消滅する。また、株価が権利行使価格を下回るとワラントの実質的価値がなく、売却が困難となり(あるいは、権利行使期間のうち最後の一定期間は残存期間が短いため取引されないことがある)、権利行使期間内に転売できない場合には、ワラント取引に投資した金額の全額を失うことになる。

このように、権利行使期間を過ぎると、ワラントは無価値となり、投資金額の全額を失う危険性がある。

しかも、外貨建てワラントは一〇枚から五〇枚を一売買単位として取引されており、個人投資家としては取引高も高額になる(証券会社の利ざやは大きい)。

(三) 価格決定・流通過程の不明朗さ

ワラントの取引価格は、ワラントの理論価値であるパリティ(現在の株価と権利行使価格の差額に一ワラントあたりの引受株式数を乗じた額)に将来の株価上昇の期待値であるプレミアムを加えたものになる。外貨建てワラントの場合は、株価のほか売買時の為替レートによる円換算が必要になる。ワラントの取引価額は、価格構造が複雑で理解しにくい。

そして、外貨建てワラントは、国内の証券取引所には上場されておらず、国内の証券会社と店頭での相対取引となる(証券会社が、手持ちないし他から調達したワラントを客に売り、また自ら買主となって顧客のワラントを買う)ため、価格形成過程は極めて不透明である。

しかも、ユーロドル・ワラントの気配値は、平成元年五月一日から、特定銘柄に限って、日本証券業協会によって発表され、平成二年九月二五日からは、日本相互証券で行われる外貨建てワラントの業者間取引の気配値一覧(前日取引分中値)が日本経済新聞等の専門紙に掲載されるようになったが、株価のように一般紙に掲載されず、価格情報に欠陥がある。一般投資家のワラントの価格に対する理解・判断が困難であり、ワラント取引の危険性を増幅させている。

また、外貨建てワラントは、原証券自体はユーロ債権集中振替決済機構に保管され、顧客には証券会社発行の預かり証が交付されるだけである。この預かり証には銘柄等の記載があるのみで、当該証券の権利内容がほとんど明記されていない(パリティの計算も不可能であり、権利行使期間があることも知りえない)。金融証券としての明確性に欠ける。この点でも投資家に対し情報が十分に与えられていない。

こうした外貨建てワラントは、買入れ先の証券会社に引き取ってもらうしか投下資本の回収の道はない。

2 適合性の原則違反

(一) 証券取引は、その性質上、ある程度の投資の危険をともなうものであり、投資家が自由な判断と責任において行った証券取引の結果については投資家自身が引き受けるべきものである(いわゆる自己責任の原則)。これは、証券取引にともなうリスクの範囲を判断しうる地位にある投資家が、その判断に基づいて行った取引の責任を負担する、ということである。その前提として、投資家に十分な質と量の情報が与えられること、及び投資家が適切な情報が与えられさえすれば自ら投資判断をなしうる者であることが必要である。

(二) 証券会社は、顧客を勧誘して証券取引を行わせるにあたって、顧客の属性、資産状態、資金の性格、投資の目的や趣旨、投資経験の有無や内容等に照らし、顧客に最も適合した取引への投資勧誘のみをなすべき義務を負う(適合性の原則)。

外貨建てワラントに関しては、前記問題点に照らし、一般投資家が適合性を持たないことは明白である。一般投資家にワラント取引を勧誘すべきではない。

仮に、一般投資家にワラント取引を勧め得るとしても、次のとおり、株取引とは異なる厳格な取引開始基準によるべきである。

(1) ワラント取引のメリット・デメリットを理解し、リスクヘッジを行うことのできる判断能力と資金力があること

(2) ワラントの適正価格が判断できる能力があること

(3) 取引の最適なタイミングを見極められること(価格情報開示の状況を理解し、価格情報を入手できる能力があること)

(4) 権利行使に必要な資金調達能力があること

(5) 投資全額損失の覚悟とこれに耐えられる資金力のあること

(三) 原告のワラント取引適合性

原告は、現場での作業に従事してきた。その職歴において、有価証券取引及びこれに関連する職務に携わったことはない。

原告は、妻の上司に勧められて証券取引を始めたが、その取引傾向は、中国電力などの手堅い銘柄の株を着実に増やし長期保有していくという堅実な貯蓄型のものであった(取引開始当初の短期的な株の売買は、担当者が無断で行ったものであった。それ以外の短期的な売買も、担当者の言うままに行われ、必ずしも原告の意思に基づくものとは言い難いものが多かった)。原告は、平成三年二月の定年を控え、平成元年には証券取引を一切行わず、平成二年には保有証券の売却及び解約により証券取引を縮小する傾向にあった。

このような原告の取引状況・傾向からすれば、原告は、株取引に精通し、株価の変動に熟知していたとはいえない。ワラントのような複雑かつ危険な商品を扱うだけの知識を有していなかった。ワラントのリスクに耐え得るだけの資金力も有していなかった。原告に対する本件ワラント取引の勧誘は、適合性原則に違反する違法な勧誘行為である。

3 断定的判断の提供禁止義務違反

Bは、原告から、無断売買につき叱責・抗議された際、「損を取り戻すためです」と説明した。これは、当該取引が必ず利益を生じる、という意味内容を含み、断定的判断の提供にあたる。

4 説明義務違反

(一) 投資家が証券取引につき自己責任を負う前提として、投資家に十分な質と量の情報が与えられることが不可欠である。ワラントは、周知性もなく商品構造・取引形態が複雑で、リスクが非常に高い商品であり、その投資に関与するためには高度の専門的知識が必要である。他方、証券会社は、証券取引について、その人的・物的基盤、知識・経験・情報・ノウハウ等の蓄積において、一般投資家に対して、絶対的な優越した地位に立っていること、外貨建てワラントが相対取引であること、流通や価格形成のメカニズムは証券会社に握られ、情報も証券会社側に偏在していること、一般投資家は証券会社の勧誘及び情報を頼りにこれを信頼して取引していることからすれば、証券会社は、信義則上、商品について説明する義務、投資家の判断を誤らせるような情報を提供しない義務を負う。

(二) 説明義務の内容は、ワラント商品の構造、ワラント取引の仕組み、ワラントの価格情報、ワラントの危険性の程度及び内容等全般に及ぶ必要がある。すなわち、次の点を説明すべきである。

(1) ワラントが、一定期間内に、一定価格で、一定株数の新株を購入できる権利を有する証券であること

(2) 外貨建てワラントの権利行使価格と権利行使による取得株式数、権利行使期間

(3) 外貨建てワラントは価格変動が激しく、紙屑になることすらあり得るリスクの高い商品であること

(4) 外貨建てワラントが非上場商品であり外国証券であること、特定銘柄の業者間の前日気配値が一部専門紙にポイントにて発表されているに過ぎないこと、購入時期によっては気配値すらなく証券会社以外からは情報が一切得られないことなどの価格に関する情報についての説明

(5) 購入、売却ともに証券会社との相対取引になること

(三) 被告会社は、信義則上、ワラント取引に際し、顧客に対し、所定の説明書を交付するとともに、ワラント証券等の取引の内容・ワラント証券取引等に伴う危険性について十分に説明し、顧客の判断と責任において当該取引を行うものであることの確認書を徴求すべきである。

(四) 原告に対する説明義務・確認義務の履行について

原告は、三井物産ワラントの取引が最初のワラント取引であった。原告は、三井物産ワラントの売買当時、ワラントについて商品知識はなかった。

Bは、原告に無断で三井物産ワラント取引を行っており、取引に先立ち、原告に対し、ワラントについて何の説明もしなかった。

Bは、原告に本件ワラント取引の事後報告をしたときも、電話で、「転換社債や、株式と同じように値動きのあるものです」などと説明したのみであった。

Bは、確認書に原告の署名をもらう際も、ワラントについて何の説明もせず、説明書の交付も行わなかった。

これでは、原告には、ワラントが株取引とどのように異なり、どのような危険が、どの程度あるかはまったく分からない。Bの説明は、ワラントと転換社債や株式とが同じような商品である、と誤解させるもので、ワラントのリスクを意識させなかった。月次報告書の記載においても、本件ワラント取引は、「債券」という欄に計上されており、Bの説明とあいまって原告にワラントを転換社債のようなものと誤信させた。

したがって、Bは、ワラント商品について、説明義務を尽くしていない。

(損害額について)

1 原告が解約及び解約代金の払戻しを指示した投資信託の解約代金は、ダイナミックステージ八八―二ストック二〇〇口分の一七八万二八〇〇円、ダイナミックステージ八八―二ストック四〇口分の三五万三八〇〇円、エース八八―一〇株式ファミリー五〇万口分の四六万二九五〇円の合計二五九万九五五〇円である。

本件取引により生じた損害額は、右合計額二五九万九五五〇円である。

2 原告は、トーメンワラントを購入するために一一五万五六〇〇円、ユニチカワラントを購入するために五六万三二八一円の合計一七一万八八八一円を出捐した。

本件ワラント取引により生じた損害額は、右出捐額一七一万八八八一円である(なお、原告は、三井物産ワラントを購入するために一〇七万四八二五円を出捐したが、売却により若干の利益を得た。しかし、原告は、これを現金で受け取っているわけではなく、トーメンワラントの購入代金に当てたから、右利益は、原告の利益となっていない)。

四  被告の主張

(本件取引の経緯について)

1 平成二年七、八月ころ、原告が保有していた投資信託は、ダイナミックステージ八八―二ストック二四〇口とエース八八―一〇株式型ファミリー五〇万口であった。エース八八―一〇株式型ファミリーは、クローズド期間中であり、解約できなかった。Bは、クローズド期間であることを、原告に説明した。

2 原告は、平成二年九月一九日、Bの電話による勧めに応じて、岩谷産業の株式一〇〇〇株(代金一二六万四一六二円)の買い注文を出した。その時点で、原告口座の預り金残高は、ゼロであった。原告は、投資信託ダイナミックステージ八八―二ストック二〇〇口を解約(解約代金一七八万二八〇〇円)し、岩谷産業株の買付け代金に充当するよう指示した。原告がBに対し解約を指示したのは、ダイナミックステージ八八―二ストック二〇〇口のみである。

3 原告は、平成二年九月二〇日、Bの電話による勧めに応じて、福山通運の株式一〇〇〇株(代金一二三万三八八四円)の買い注文を出した。その時点で、原告口座の預り金残高は、五一万八六三八円であった。原告は、投資信託ダイナミックステージ八八―二ストックの残り四〇口を解約(解約代金三五万三八〇〇円)し、福山通運株の買付け代金の不足分に充当するよう指示した。残金三六万一五〇〇円は、四営業日内になる平成二年九月二六日に入金された。

4 Bは、平成二年一〇月八日、原告の自宅に電話し、福山通運の株式の買い増しを勧誘した。原告は、これを承諾し、株価が下がったところで買い付けをすること、購入資金は岩谷産業の株式を売却して当てることを指示した。

Bは、原告の指示に基づいて、平成二年一〇月八日、岩谷産業の株式を一一七万〇七〇一円で売却した。同月一一日、福山通運の株式一〇〇〇株(代金一一九万三五一三円)を買った。

原告は、平成二年一〇月一六日、購入代金の不足分二万二七五八円をBに渡した。

5 Bは、平成二年一〇月一七日、原告に対し、電話で三〇分にわたってワラントの商品説明をし、ワラントの購入を勧めた。Bは、ワラントは、権利行使期間を過ぎると無価値になり投資金額全額を失うが、短期で売買すれば利益が見込めること、値動きが大きいこと、三井物産ワラント(〇三ミツイブッサンワラント九三)二〇ワラントが一〇八万円位で購入できるので、購入資金としては福山通運の株式一〇〇〇株を売却すれば買えることを説明し、三井物産ワラントの購入を勧誘した。原告は、ワラントの購入及び福山通運株の売却を承諾した。Bは、福山通運の株式一〇〇〇株を一二〇万九八一一円で売却し、一〇七万四八二五円で三井物産ワラント二〇ワラントを購入した。

Bは、平成二年一〇月一八日、原告の勤務先に説明書(乙五)を持参した上、確認書(乙四)に原告の署名・押印をもらった。

6 Bは、平成二年一〇月二四日、原告に電話し、三井物産ワラントの価額が上がって六万円位利益が出ていることを伝えた。原告は、三井物産ワラントの売却を指示した。Bは、三井物産ワラントを一一三万三九一六円で売却した。原告は、Bに対し、「えらい早く儲かったな」と言った。

原告は、Bの勧めに応じて、三井物産ワラントの売却代金をもって、〇三トーメンワラント九三〇二ワラント二〇ワラントを代金一一五万五六〇〇円で購入した。

7 Bは、以前からNTT株を購入したい、という原告の意向を聞いていた。平成二年一〇月二五日、NTT株の購入を勧誘した。原告は、これに応じて、福山通運の株式一〇〇〇株を売却して、NTT株を購入するよう指示した。Bは、右指示に従って福山通運株の売却及びNTT株の買付けを行った。

8 Bは、平成二年一〇月二六日、原告に対し、〇一ユニチカワラント九三の購入を勧誘した。購入資金は、エース八八―一〇株式ファミリー五〇万口を解約した代金四六万二九五〇円(原告は、以前から、投資信託は分かりにくいので解約したい、と言っていた)と預り金残金二二万五七一〇円を当てるよう勧めた。原告は、これを承諾した。

Bは、原告の指示に従い、ユニチカワラントを五六万三二八一円で買った。

右売買の余剰金一二万五三七九円は、平成二年一一月二日、原告宅に持参した。原告は、何ら苦情を言うことなく、右残金を受け取った。

9 Bは、本件取引において、原告から買付け及び売却の指示を受け、取引が成立した後には、原告の自宅ないし勤務先に電話し、取引の成立を報告している。

また、被告会社は、本件取引の成立の翌日には、取引報告書を送付し、月末には、月次報告書を送付している。月次報告書には、「ご確認のお願い」として「記載内容をご確認いただき回答書にご署名・ご捺印のうえ一カ月以内にご返送下さい。ご回答なき場合は、記載内容に相違ないものとして取り扱わせていただきます。なお、ご不明の点は、取扱店の部店長または総務課長にお申し出下さい」と記載されている。これに対し、原告は、何ら異義を述べることなく、回答書に署名・押印して、被告に返送している。

10 原告は、平成三年一二月一五日ころ、被告会社尾道支店に来店し、被告に対し、ワラントがゼロになるという説明は聞いていない、と本件取引について初めて苦情を申し立てた。その際、原告は、無断売買との苦情を言っていない。原告が本件取引が無断売買であると主張したのは、平成五年一月下旬に被告会社が実施したアンケートに答えたときが初めてである。

原告は、被告会社の従業員Cから、本件ワラント取引の確認書に署名・押印をしていることを示されて、再度ワラントの説明を受け、納得した。

11 原告は、平成七年四月二一日、被告会社との取引を清算し、被告会社が保管していた大東建託一〇〇株、厚木ナイロン一〇〇〇株、中国電力二万三三〇三株及び中国電力一八〇〇株の株券を受領した。

(本件取引の違法性について)

Bは、前記のとおり、原告の事前の承諾を得て、本件取引を行ったものである。

仮に、原告が、事前に承諾していない場合があるとしても、前記取引の経緯に照らせば、原告は、本件取引を追認した、と認められる。

したがって、Bの行為には、何ら違法性はない。

(本件ワラント取引の違法性について)

1 ワラントについて

ワラントは、発行会社にとって、長期外貨建て金銭債権の為替のリスクヘッジを図る、資金調達の方法を多様化する、というメリットがあるばかりでなく、投資家にとっても、株式投資に比較して少ない資金で投資ができ、高い利益を上げることができるなど、さまざまなメリットを持った商品である。

ワラント取引は、次のとおり、合理性があり、そのリスクは、投資家にとって十分回避可能である。

(一) ワラントは、株式に比べて値動きの幅が大きく、ハイリスクの商品であるが、これはハイリターン(高収益)というメリットと裏表の関係にある。また、ワラント取引のリスクは投資額に限定されている。

(二) ワラントは、権利行使期間を過ぎると無価値になるが、権利行使期間がいつであるかは予め決定されているし、その期間も発行から四年、五年などの長期間である。

(三) 外貨建てワラントは、為替の変動の影響を受けるが、為替変動の幅は株価の変動に比べると極めて小さなものである上に、為替レートについては情報が十分にある。

(四) 外貨建てワラントは、顧客と証券会社との相対取引であるが、その売買価格は前日のロンドンにおける業者間マーケットの最終気配値を基準に株価の動向を考慮して決定されるのであって、恣意的に決定されるものではない。また、証券会社が、顧客の買い注文や売り注文を拒むことはない。

(五) 外貨建てワラントの取引価格は、平成元年四月一九日から、市場性の高い代表的銘柄についての業者間取引の店頭気配値が日本証券業協会で発表されるようになった。投資家は、右気配値発表銘柄の店頭気配をクイックテン(情報会社であるクイックが提供する情報端末)で見ることができる。平成二年九月二五日から、業者間取引が日本相互証券を通じて行われることになり、これに伴い、日本相互証券における取引気配値が証券会社の店頭で表示されるようになり、日本経済新聞にも掲載された。

2 適合性の原則違反について

被告会社は、ワラントの取引開始基準として、(一)有価証券の知識と経験があること(二)顧客からの預り資産が五〇〇万円以上あること、を定めていた。

原告は、昭和五四年一月から、被告と取引を始め、以後株を中心に投資信託も交えて多数の取引を行ってきた。原告の投資傾向は、中国電力株の長期保有を除けば、一般的優良株を買い付けてじっくりと保有するというよりも、いわゆる材料株(例えば、昭和五四年には、「日本石油」「東亜石油」「東亜燃料」「丸紅」などを数日から一か月以内に売買している)と言われる値動きの荒いものを中心として短期間で利ざやをとる超短期のキャピタルゲインねらいであった。したがって、本件ワラント取引の当時、原告は、投資家として、ベテランの域に達していた。

また、原告は、本件ワラント取引当時、被告会社に約六〇〇〇万円の預り資産を有しており、ワラント取引に十分な資力を有していた。

原告は、平成二年になって取引を拡大していた。

したがって、原告は、取引経験及び資力の点で、十分にワラント取引開始基準を満たしており、適合性の原則に反すると認める余地はない。

3 断定的判断の提供について

Bが本件ワラント取引について「損を取り戻すため」と言ったとしても、それは、損を取り戻すためにはやってみる価値があるという程度の意味であり、「必ず利益が生じる」という意味ではない。

4 説明義務違反について

(一) Bは、三井物産ワラント取引に先立ち、電話でワラントとはどういう商品か、株と比べてどこがどう違うのか、どのような値動きがあるのか、今後どのように価格が推移するのか等を十分説明した。

また、Bは、原告に対し、説明書(権利行使期間が終了したときはその価値を失うこと、ワラント価格の変動率は株式に比べて大きくなる傾向があること、ハイリスク・ハイリターンであること、相対取引であることが記載されている)を交付して、ワラントの性質・取引の仕組み等を十分に説明した。

原告も、これを納得したからこそ、説明書の内容を確認し、自己の判断と責任によりワラント取引を行う旨の記載のある確認書に署名・押印した。

したがって、被告は、原告に対し、ワラントについての説明義務を尽くした。

(二) 原告は、日本経済新聞を読んでいた。日本経済新聞では、平成二年夏ころから、ワラントの仕組やワラントの危険性を掲載していた。原告は、ワラントの商品内容や危険性を理解していたはずである。

また、日本経済新聞には、ワラントの気配値も載っており、原告は、保有ワラントの値動きを把握できたから、原告が本件ワラントの処分時期を逸したのは、原告自身の責任である。

5 原告は、原告が行ったワラント取引のうち、利益の発生した取引を意図的に除外し、損金の発生した取引のみを選択して不法行為と主張している。これは、不当である。

第三当裁判所の認定した事実

一  本件取引の経過等について

当事者間に争いがない事実に本件証拠(甲四〇、乙一の一ないし二〇、二ないし七、八ないし三〇の各一、二、三一ないし三八、三九の一、二、四〇、四一の一ないし一〇、四二の一、二、四三ないし四五、四六の一ないし七、四七、四九、証人C及び同Dの各証言、原告本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告(昭和六年○月○日生)は、昭和二三年、旧制中学を卒業し、昭和二四年、広島ガス株式会社尾道支社に入社した。その後、三和製氷、尾道冷凍を経て、昭和五一年から、株式会社ケンスイに勤務し、冷凍機及び冷蔵庫の管理作業に従事した。平成三年二月、六〇歳の定年を迎え、退職した。

2  原告は、昭和五〇年、妻の上司の勧めで、ウツミ屋証券株式会社と株取引を始めた。約三〇〇万円で中国電力の株式を購入した。昭和五四年一月、被告会社と証券取引を始めた。

本件取引に至るまでの原告と被告との証券取引の概要は、次のとおりである。

(一) 原告は、昭和五四年一月八日、投資信託七九―一タイヨウファミリー二一万円を買った。被告との最初の取引である。

(二) 昭和五四年四月下旬ころから、取引が頻繁になった(同年五月一日、四六〇万円余りが入金されている)。同年末までの間に、六〇回程度の取引を行った。日本石油、日本郵船、住友石炭等のいわゆる材料株の取引であった。一回の取引金額は、二〇万円程度から一〇〇万円程度のものが多かった。買付け日から数日ないし一カ月以内に、買付けた株を売却した(数万円から一〇万円程度の利益が出たが、損害が生じたときもある)。右取引の被告会社の担当者は、Eであった。

原告は、右取引もEが無断でした旨供述している。無断であるか否かはともかく、その取引の態様及び原告本人の供述に照らせば、Eの指導により、同人の勧めるままに取引したものと推認できる。原告が自ら調査・選択して右取引を決断した、とは認め難い。

(三) 昭和五五年中の取引回数は、一五回程度である。保有する株を売却して、代金約一三〇万円で中国電力の株式を買った。

(四) 昭和五五年一一月から昭和五六年五月までの間は、取引がなかった。

(五) 昭和五六年六月から同年一二月までの間の取引回数は、七回ほどである。一回の取引金額は、五〇万円前後であった。

(六) 昭和五七年二月に二回の取引があった。昭和五七年三月から昭和六一年五月までの約四年間、取引がなかった。

(七) 昭和六一年六月七日、保有していた新日本証券三〇〇〇株を三四五万二三五〇円で売り、同月一九日、外貨建て投資信託であるターゲットファンドを三二六万一八九五円で買った(右投資信託購入のため、外国証券取引口座を開設した)。担当者の交代により、取引を再開したものである。

昭和六一年七月二五日、保護預り証券について、預り証の交付を止め、代わりに月次報告書の送付方式をとることにした。

昭和六一年一二月一八日、右購入した投資信託を売却し、日本セメントの株式を買った。

(八) 昭和六二年は、年間一三回の取引を行った。一回の取引額は、約三〇〇万円前後であった。この年、被告会社の原告担当者がBに代わった。

原告の取引は、保有を続けていた中国電力の株式を除き、手持ちの証券(株が中心である)を売却し、その売却代金を資金に新たな証券を買い付ける、いわゆる乗り換えと呼ばれるものであった。必要に応じて、追加資金を入金したり、余剰金の払戻を受けたりした。右取引も、Bの勧めるままに行っていたものと推認され、原告が選択・決断した取引とは認め難い。

(九) 昭和六三年中の取引は、合計一二回ある。一回の取引金額は、二五〇万円前後のものが多い。投資信託の取引が増えた。

(一〇) 平成元年中の取引はなかった。

(一一) 平成二年四月から同年七月末までの間に、数回の取引を行った。一回の取引額は、三〇万円前後であった。

(一二) 被告会社は、平成二年九月七日の時点で、次の原告の有価証券を預っていた。

(1) 中国電力の株式 二万五一〇三株(昭和五四年、昭和五五年、昭和五七年及び平成二年七月に預ったものの合計である)

(2) ダイナミックステージ八八―二ストック 二四〇口(昭和六三年七月二八日に預った額面二四〇万円の投資信託)

(3) エース・八八―一〇株式型ファミリー 五〇万口(昭和六三年一〇月一二日に預った額面五〇万円の投資信託)

(4) エース・九〇―〇九株式型ファミリー 一〇万口(平成二年九月一〇日に預った額面一〇万円の投資信託)

3  平成二年九月一九日ころから同年一一月五日までの間の本件取引について

(一) 原告名義の顧客勘定元帳上の売り買いの状況及び金銭の動きは、次のとおりである(別紙参照)。

(1) 平成二年九月一九日 ダイナミックステージ八八―二ストック二〇〇口の解約(解約代金一七八万二八〇〇円)

同日 岩谷産業の株式一〇〇〇株の買い(売買代金一二六万四一六二円)

(2) 同年九月二〇日 ダイナミックステージ八八―二ストック四〇口の解約(解約代金三五万三八〇〇円)

同日 福山通運の株式一〇〇〇株の買い(売買代金一二三万三八八四円)

同月二六日 入金三六万一五〇〇円(右売買代金不足分)

(3) 平成二年一〇月八日 岩谷産業の株式一〇〇〇株の売り(売却代金一一七万〇七〇一円)

同月一一日 福山通運の株式一〇〇〇株の買い(売買代金一一九万三五一三円)

同月一六日 入金二万二七五八円(右売買代金不足分)

(4) 平成二年一〇月一七日 福山通運の株式一〇〇〇株の売り(売却代金一二〇万九八一一円)

同日 〇三三井物産ワラント九三の二〇ワラントの買い(売買代金一〇七万四八二五円)

(5) 平成二年一〇月二四日、〇三三井物産ワラント九三の二〇ワラントの売り(売却代金一一三万三九一六円)

同日 〇三トーメンワラント九三〇二の二〇ワラントの買い(売買代金一一五万五六〇〇円―不足分二万一六八四円は預り残高を当てた)

(6) 平成二年一〇月二五日、福山通運の株式一〇〇〇株の売り(売却代金一二二万九三六五円)

同日 NTTの株式一株の買い(売買代金一一三万二九五七円)

右売り買いは、原告が指示したことを認めている。

(7) 平成二年一〇月二六日、エース八八―一〇株式ファミリーの五〇万口を解約(解約代金四六万二九五〇円)

同日 〇一ユニチカワラント九三の一〇ワラントを買い(売買代金五六万三二八一円)

同年一一月二日 出金一二万五三七九円(右余剰金は原告が受け取っている)

(8) 平成二年一一月五日 NTTの株式一株の売り(売却代金一一二万一八一五円―原告が右売却の指示をしたことは認めている)

同日 厚木ナイロンの株式一〇〇〇株の買い(売買代金一三一万四六二六円)

同月八日、入金一九万二八一一円(右売買代金不足分)

(二) 原告は、前記(一)の取引(ただし、原告の指示があったことを認める取引を除く)は被告会社の担当者Bが原告に無断でした旨主張している。

Bが原告の事前にどの程度の了解を得ていたのかは明らかではないが、次の事実を総合すれば、原告は、少なくとも、本件取引を追認した、と認めるのが相当である。

(1) 原告は、本件取引の直後に、Bから、電話で、それぞれ取引した旨の報告を受けたことは認めている。原告は、Bの報告に対して異義を申し述べた旨供述しているが、被告会社に対し、無断売買である旨の抗議をしていない。原告が被告会社に対して無断売買である旨申し立てたのは、後記認定のとおり、平成五年一月ころのことである。原告がBに異義を述べた旨の供述はにわかに信用できない。

(2) 更に、被告会社は、本件取引がそれぞれ成立した後に、原告に対し、取引報告書を送付している。また、月末には、月次報告書を送付している。とくに、月次報告書には、成立した取引の内容を記載し、取引の内容を確認して、報告を受けた取引詳細の内容に間違いない旨の回答書を返送してほしい、との申出が記載してあるが、原告は、異義を述べることなく、回答書に署名・押印して被告会社に返送している。

(3) また、本件取引のうちには、売買代金の不足が生じたり、余りが生じたものがある。原告は、Bの要求に従い、売買代金の不足金を支払っているし、剰余金を異義なく受領している。右事実は、それぞれの取引を少なくとも追認したことを推認させる。

(4) 原告は、Bの要請で不足金を支払ったものであり、回答書もBの説明を信じ事後処理に協力するために返送したに過ぎない旨の供述をしている。しかし、仮に、原告の言動が原告の供述をするような趣旨であったとしても、追認を認めることを妨げるものではない。

4  本件ワラント取引について

(一) 原告のしたワラント取引は、次の三件である。

(1) 平成二年一〇月一七日、〇三三井物産ワラント九三の二〇ワラントの買い 代金一〇七万四八二五円

同月二四日 右ワラントの売り 代金一一三万三九一六円

差引利益 五万九〇九一円

(2) 平成二年一〇月二九日 〇三トーメンワラント九三〇二の二〇ワラントの買い 代金一一五万五六〇〇円

権利行使期間平成五年一一月二四日経過

(3) 平成二年一〇月二六日 〇一ユニチカワラント九三の一〇ワラントの買い 代金 五六万三二八一円

権利行使期間平成五年七月二〇日経過

(二) Bは、ワラントについて、次のような説明をした、としか認められない。

(1) Bは、三井ワラント取引が成立した後、電話で、原告に右取引が成立したことを報告した。原告は、Bにワラントの説明を求めた。Bは、転換社債や株と同じように値動きがある旨説明した。それ以上にワラント取引の危険性を説明したことを認めるに足りる証拠はない。

(2) その後、Bは、原告の勤務先を訪ね、確認書に原告の署名・押印を求めた。原告は、Bの言うままに確認書に署名・押印したが、その際、ワラントについて格別の説明を受けなかった(このとき説明書が渡された否か判然としないが、説明書を渡したとしても、口頭で説明を加えた事実を認めるに足りる証拠はない)。

(3) トーメンワラントの取引成立後、Bは、原告を職場に訪ね、株価の上下にともないワラント価格も上下する旨の説明をした。しかし、それ以上にワラント価格の変動が株価より大きいとか、権利行使期間があるとか、権利行使期間を過ぎると無価値になるとかの説明をしたことを認めるに足りる証拠はない。

(4) Bは、ユニチカワラント取引の成立後、電話で、原告に右取引が成立したことを報告しているが、ワラントについて、とくに説明をした、との事実を認めるに足りる証拠はない。

5  本件取引後の取引状況等

(一) 原告は、平成二年一二月六日、新日本証券株を七万一九六八円で売却した。平成三年になって、被告会社との取引はなかった。

(二) 原告は、平成三年一二月中旬、被告会社尾道支店を訪れ、ワラントについて無価値になる旨の説明を受けていない、と苦情を述べた。C営業課長が応対し、原告の署名・押印のある確認書を示して、ワラントについて説明した。この時、原告から、本件取引が無断売買である旨の申し出はなかった。逆に、原告は、被告会社の勧めで、平成三年一二月二〇日、大東建託の株式一〇〇株を代金七八万五四八二円で買った。その後、被告会社との取引はなくなった。

(三) 原告は、平成五年一月下旬ころ、被告会社からのアンケートに答えて、初めて、Bに無断売買された旨申し立てた。

(四) 原告は、平成七年四月二一日、被告会社に預けていた大東建託の株式一〇〇株、厚木ナイロンの株式一〇〇〇株、中国電力の株式合計二万三四八三株を受け取り、被告との取引を清算した。

二  ワラントについて

本件証拠(甲一ないし三〇、三三、三四、三六ないし三八、四一の一、二、四二ないし四八、五一ないし五五、乙四八の一、二)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  ワラントとは、昭和五六年の商法改正によって発行を認められた新株引受権付社債(別名ワラント債という。新株引受権(ワラント)部分と社債部分とからなる)のうち新株引受権のみを分離した証券である。発行会社の新株を、ワラント発行時に予め決められた一定の期間(権利行使期間、通常は新株引受権付社債の発行後数年間)内に、一定の価格(権利行使価格)で、一定量(社債額面(ただし、外貨建ての場合、ワラント発行条件決定時の為替レートで換算したもの)÷権利行使価格)購入することのできる権利を表章している。

ワラントは、株価がワラントの権利行使価格を上回る場合であれば、投資者に新株引受権を行使して割安なコストで新株を取得する機会を与えることになるが、株価がワラントの権利行使価格を下回る場合は、新株引受権を行使するメリットがなくなる(権利行使価格より安い値段で株が取得できるから)。したがって、株価がワラントの権利行使価格を上回らないまま権利行使期間を経過した場合、ワラントの新株引受権は行使されず、その権利は消滅し、ワラントは無価値となる。

ワラントの価格は、ワラントの理論価格(新株引受権を行使して得られる利益相当額である。「パリティ」という)である「(株価-権利行使価格)×当該ワラントが引き受けることのできる新株の数」として計算された価格に、株価上昇期待価値(プレミアム)が加算されたものになる。ワラントの価格は、市場の株価の上下にともなって上下する。ワラントの価格の変動の率は、株価より大きい。

2  我が国では、昭和六〇年一一月一日、社債と分離したワラントの発行が解禁され、昭和六一年一月一日、外貨建てワラント債の分離ワラントを国内に持ち込むことが解禁された。

海外市場において取引されていた日本企業のワラントが、国内の証券会社の店頭・相対取引の対象となるようになった。

昭和六三年ころから、機関投資家を中心としてワラント取引が行われるようになり、平成元年ころから、個人投資家にもワラント取引が拡大していった。

外貨建てワラントの気配値は、平成元年五月一日から、特定銘柄に限り、業者間取引の店頭気配値が、日本証券業協会によって発表されるようになった。平成二年九月二五日から、日本相互証券における外貨建てワラントの業者間取引の気配値一覧(前日取引分中値)が日本経済新聞等の専門紙に掲載されるようになったが、株価のように一般紙には掲載されていない。

3  ワラントの特質(危険性)

以上のような性質をもつワラントには、次の特質(危険性)がある。

(一) ワラントの価格は、株価に連動して値動きするが、株価以上にその変動率が大きく(ギヤリング効果)、その売買はハイリターンであるとともにハイリスクである。

(二) 権利行使期間が定まっているため、その期間を経過すると、ワラントを行使することも売却することも不可能になり、投資金額全額を失う危険性がある。

(三) 価格決定過程が複雑であり、店頭における相対取引であるため、外貨建てワラントの取引価格の公開性がない。平成二年九月に専門紙に業者間の取引気配値が掲載されるまで、一般投資家は、証券会社に問い合せるしか、ワラントの取引価格を知り得なかった。

4  日本証券業協会は、平成元年四月一九日の理事会決議で、外貨建てワラントについて、証券会社から顧客に対してワラントに関する説明書を交付すること、顧客の判断と責任において取引を行う旨の「外国新株引受権証券の取引に関する確認書」を徴求することを定めた。平成二年三月一六日、「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」(公正慣習規則九号)の一部を改正し、証券会社が新株引受権証券取引にかかる契約をしようとするときは、日本証券業協会が作成する説明書を顧客に交付し、かつ顧客から確認書を徴求することが定めた。

5  平成二年一〇月一二日付けの日本経済新聞には、ワラントの権利行使が進まず、権利行使ができなければ紙くず同然になる恐れもある旨の記事が掲載されている。同月一七日付けの日本経済新聞にも、ワラントに迫る紙くず化の恐れとの記事が掲載されている。原告は、職場で日本経済新聞を見る機会はあったが、右記事には気付いていない。

第四当裁判所の判断

前項認定の事実関係を前提に、被告会社の不法行為責任について、判断する。

一  本件取引について

原告は、平成二年夏ころ、自己所有の投資信託をすべて一括して解約し、解約代金を払い戻すよう指示したのであって、その後の本件取引はすべて無断取引であると主張し、原告本人は右主張にそう供述をする。

しかし、本件取引が無断取引である、と認められないことは、すでに認定したとおりであり、原告は、投資信託を解約した代金を本件取引の資金に当てることを少なくとも事後的には了解した、と認められるから、Bが解約・払戻の指示に違反した(原告がBに対し解約・払戻の指示をしていたとしても)、と認めることはできない。

したがって、原告の本件取引についての不法行為の主張は失当である。

二  本件ワラント取引について

1  適合性の原則違反

(一) ワラントの発行・取引自体は法律上禁止されておらず、ハイリスクはあるが、他方ハイリターンの期待もあるのであり、外貨建てワラント自体の内在的欠陥は認められないから、外貨建てワラントであっても、適切な説明がされたうえ、投資者の意向・経験・資産に応じた取引をすることは可能である、と認められる。

したがって、外貨建てワラントの取引が一般的に許されない、と解することはできない。

(二) 前記認定の事実関係によれば、原告は、昭和五〇年から、有価証券の取引経験があること、本件ワラント取引当時、原告が被告会社に預けていた有価証券からして、原告には一定の資産があった、と認められること、本件ワラント取引の売買価額は五〇万円ないし一〇〇万円余りであることが指摘できる。

右指摘の事情に照らせば、原告に本件ワラント取引の適合性がない、とまでは認め難い。

(三) したがって、本件ワラント取引が適合性の原則に反する旨の原告の主張は、失当である。

2  断定的判断の提供

Bが原告に対して「損を取り戻すためである」旨の説明をしたことをもって、違法な断定的判断の提供である、と認めることはできない。

3  説明義務違反

(一) 有価証券取引のもつ危険性と専門性、証券会社と一般投資家との有価証券に対する専門知識の違い、とくに一般投資家の投資判断は専門家である証券会社ないしその従業員の勧誘・助言によるところが大きいとの実態、更に証券取引法・省令・通達・財団法人日本証券業協会規則といった法令等の規定を総合すれば、証券会社及びその従業員は、信義則上、投資勧誘の際には、投資者の職業、年齢、投資目的、投資経験及び資力等を考慮したうえ、投資者に対し、勧誘する商品の有利性のみならず、その危険性についても投資者が理解できるように説明する義務(説明義務)がある、と解すべきである。

(二) これを本件についてみるに、次の事情が指摘できる。

(1) ワラント取引には、ハイリターンの可能性があるとともにハイリスクの危険性もあるほか、権利行使期限があり、新株引受権を行使しないまま期限を経過すると、無価値になる危険性があった。

(2) ワラント取引は、平成二年一〇月当時、一般に周知性のある商品ではなかった(当時、原告がワラントの商品内容や危険性を日本経済新聞等により理解していた、とは認められない)。

(3) 原告は、有価証券取引の期間は長いが、中国電力の株式を長期間保有していた以外は、被告会社の担当者が勧めるままに、株の売買を繰り返し、小額の利益を得るという取引を行っていたものであり、自ら会社や経済状況を調査・研究し、いわゆる自らの相場観をもって積極的に株取引を行っていたものではない。原告が投資家としてベテランの域に達していた、とは認められない。

(4) 被告会社の使用人Bは、原告に対し、本件ワラント取引の際に、転換社債と同じように値動きがある、あるいは株価の上下にともないワラント価格も上下する旨説明したが、ワラントの値動きの幅が大きいことや権利行使期間があること、更に権利行使期間を過ぎると無価値になることについては説明していない、と認められる(仮に、原告に説明書を交付したとしても、具体的に説明をした事実は認められないから、説明書の交付をもって、説明義務を履行した、と認めることはできない)。

(三) 右指摘の事情を総合すれば、Bには、本件ワラント取引の勧誘に当たり、説明義務を尽くしていない過失があり、被告会社は、使用人であるBが業務執行につき原告に加えた損害を賠償する使用者責任がある、と認めるのが相当である。

被告は、原告がワラントの値動きを日本経済新聞により把握できたから、本件ワラントの処分時期を逸したのは原告の責任である旨主張する。しかし、原告が現実にワラントの値動きを把握していた、と認めるに足りる証拠はない。また、原告は、Bの勧めるまま本件ワラント取引をしたのであり、その処分時期を自ら判断する予定であった、とは認められないし、それを期待することができた、とも認められないから、原告が本件ワラントの処分時期を逸したことを過失相殺で考慮することはともかく、これをもって被告が免責される、とすることはできない。

三  損害額

1  原告は、ワラント取引の危険性について説明を受けていれば、本件ワラント取引をしなかった、と認められるから、原告がワラント取引で出捐した金額が前記説明義務違反による損害である、と認める。原告は、ワラントの売買代金として合計二七九万三七〇六円を支出し、ワラントの売却代金一一三万三九一六円を受け取っている(三井物産ワラントの売却代金は、トーメンワラントの購入代金に充当され、原告が現金を受け取っていないが、右充当がなければ、トーメンワラントの購入のための出捐が必要になるから、現金を受け取っていなくとも、三井物産ワラントの売却代金は利益と評価するのが相当である)から、その差額一六五万九七九〇円が損害と認められる。

2  ところで、前記認定の事実によれば、原告は、長期間にわたり有価証券取引の経験があり、有価証券取引の危険性については理解できた、と認められるし、原告には、Bに対し、ワラントの内容及び危険性について説明を求める機会があり、事後的であっても本件ワラント取引を拒絶し、あるいは早期にワラントを処分する余地はあった、と認められるから、本件取引によって前記損害が生じたことに関し、原告にも過失があった、と認めるのが相当である。

したがって、原告の右過失を斟酌し、右認定の損害のほぼ七割に相当する一一六万円が損害賠償の額と定める。

3  被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、一四万円と認める。

五  まとめ

原告は、被告に対し、本件ワラント取引に関し、使用者責任による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金合計一三〇万円及びこれに対する不法行為の日以後で訴状送達の日の翌日である平成五年五月一四日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

第五結論

よって、原告の本訴請求は、一三〇万円及びこれに対する平成五年五月一四日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林正明 裁判官 喜多村勝德 裁判官 鬼頭容子)

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